木のものがたり~木の生存戦略から見た真の価値~①

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みなさん、こんにちは!

地球上にいる人間を含めたすべての生物は、さまざまな環境の中で生き残るために、固有の戦略を駆使してきました。その中でも、樹木のとっている生存戦略を知ると、じつは木材のほんとうの価値を知ることができます。自然が生み出した驚異の素材を再認識することで、木造住宅の隠れた力を実感していただければと思います。

木という生物

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森の中を散策していると、切り株の痕を見つけて写真に撮りました。見れば切り口がきれいなので、人の手によって伐られたことは間違いありません。 しばらく時間も経ったのでしょう、森の中に生息している菌糸類や細菌などが飛来して、その切り口に繁殖をし始めています。

木が腐るのは腐食菌やバクテリアなどの分解力に因るものです。コロナウイルスによるパンデミックを経験すると、人類にとっても、細菌は最大の敵であることがわかります。

ここで、生物界の絶対的な王者として頂点に君臨している人類を殺している動物とは何かという、WHOの関連レポートを見ると、興味が湧きます。

その3位は毒蛇で、年間約5万人が亡くなっています。2位ははおよそ10倍に当たる48万人を殺しているのが、じつは同じ人間です。そしてさらに約1.5倍の年間73万人の犠牲者を出している1位の動物は蚊です。ただし蚊といいながら、現実は蚊に媒介されたマラリア菌などの感染で命を落としているのです。

菌による感染症が大敵であるこは樹木も同様で、細菌類に好き勝手に繁殖されては長生きを続けることはできません。その上、樹木は人間のように知性による分析研究を武器にして菌と戦うわけでもなく、さらに人間よりもずっと長く生存するのですから、より多くのリスクにさらされることになります。

そこで、もう一度、もう少し注意深く切り株の写真を見るとちょっと状況が違うことに気がつくかと思います。そうです、緑色に菌が繁殖しているのは切り株の周辺部であり、中心部の年輪が赤くなった部分では繁殖が抑えられていることがわかります。木もしっかりと、抗菌対策をしているのです。


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その仕組みは、木を構成する3つの主成分である、セルロース、ヘミセルロース、リグニンにあります。もちろんこれらは、樹木が生長の過程で生み出した有機化合物です。

セルロースは、食物繊維として聞くこともあります。ヘミセルロースと合わせて、この繊維質が筋金となり、それをリグニンで固めることにより、木の本体ができていきます。ですから、樹木から紙をつくる時には、リグニンを除去してセルロースだけにしてすくことでつくられています。

固めているリグニンは、芳香性高分子化合物で、木の匂いの素にもなっていますが、とても分解しにくい構造になっています。そして植物の細胞壁の中でも、リグニンが最後に蓄積されてゆくので、切り株の中心部のように、古い場所に多く存在するようになります。

そうです、木の中心部の赤身部分の正体は多くのリグニンであり、このリグニンが抗菌作用を発揮しているのです。切り株の写真は、このリグニンの分布状況を的確に見せてくれていたのです。

死んで生きる

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樹木は運が良ければ数千年を生き、中には10階を超えるほどにも生長します。

動物が動き回るためには、大変なエネルギー量を必要としますが、たとえ動かないとはいえ、高々と水を汲み上げ生長し続けるエネルギー量は大変なものだと想像されます。じつはここでも、木の中心部の赤身と外周部の白太の役割は分かれています。

単純にいえば、白太のさらに外周部である樹皮近くで生きて活動しているのであって、中心部の赤身の部分はすでに生体活動を行っていません。つまり、木は中心部が死ぬことにより、無駄なエネルギーを負担しなくて良いようにしているのです。

しかし多くの生物は生体活動が止まると腐食が始まるものです。腐食すれば、当然のことながら、支えて立っていることもできません。

そのために、リグニンを生成し蓄えることで赤身となり、同時に腐食しにくい性質を持つことで生長してゆく戦略をとっているのです。つまり、部分的に死ぬことが、生きるための戦略であるということです。

しかし自然界はバランスをとり、セルロースを破断する虫類や、リグニンを分解するバクテリアもいて、これらが繁殖する環境が整えば腐食して分解することになります。細かく砕かない、菌が繁殖するような湿気と酸素がなければ、木材は腐らないということです。


「木のものがたり~木の生存戦略から見た真の価値~②」へ続く…
出典:住まい文化研究会「おうちのはなし」

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