確かに嗅覚というのは、記憶に直結していると感じることがあります。
ある特定の匂いを嗅いだ時に、まるでフラッシュバックのように昔の記憶を呼び覚まします。
たとえば塩素の匂いを嗅ぐと、子どものころに一生懸命泳いだ小学校のプールを思い出します。
先生が消毒のために白い塊を投げていました。
道に水を撒くと、埃がたつようなにおいがします。
太陽が照りつけた日向の匂いです。
真夏の強い日差しを思い出します。
新聞を開くとインクのにおいがします。
この匂いを昔の人は父親の匂いと同じという人も多いようです。
こうした匂いが記憶を呼び覚ます効果のことを、プルースト効果といいます。
フランスの作家であるマルセル・プルーストが、匂いによって思い出される幼少の記憶を書いた「失われた時を求めて」という小説に由来します。
匂いによって想起される記憶というのは無意識的なものです。
覚えようとしたり、思い出そうとしたりして意識されるものではありません。
しかし嗅覚と脳の関係から、私たちはごく普通に生活している中でも、匂いと記憶を脳の中に刻みながら生きているのです。
また、日本人は匂いについても敏感で、香道と言う芸術も築き上げました。
香道の世界では、香は嗅ぐのではなく聞くと言います。
この香道の中でも、源氏香では匂いを源氏物語の記憶と重ねて楽しみます。
使われるのは六国と呼ばれる6つの香りですが、こうした香道に使われてきたのは、香木であり、木材にはいろいろなにおい成分が含まれています。