文明開化とともに、西洋の生活様式であるイス座が入ってきました。しかし、すぐに受け入れられたわけではありません。食卓も近年まで、ユ力座で使う「ちゃぶ台」が一般的でした。
ところが戦後にはあっという聞に、イス座の生活が普通になりました。今では、椅子がまったくない家は、おそらくないといっても良いでしょう。
そして正座やあぐら座に苦痛を感じる人もたくさんいます。正座は膝や足首への負担が多く、あぐら座は腰や背筋への負担があります。その点の快適さは、イス座の方がずっと楽です。たとえば、介護を考えても、立ちあがりやすい高さにあるベッドや椅子の方が便利です。
歴史の上で意外なのは、正倉院の所蔵品の中にも椅子があることです。室町時代や平安時代には椅子が使われていた時期もあります。さらにさかのぼると、埋葬品としての埴輪にも椅子に座った姿の出土品もあります。決して日本人が椅子を避けてきたわけではありません。
そんな椅子の歴史もあるのに、今また、ユ力座の暮し方が求められています。ソファを背もたれにして床に座ったり、ソファの上にあぐらをかいて座ったりしているのです。まるで、腰かけるための椅子としては、まったく別の使い方を考案したのと同じです。
ユ力座にしてもイス座にしても、生活スタイルを決める大切な要素です。特にくつろぎをテーマにするスペースでは、よく考えておく必要があります。
出典:住まい文化研究会「おうちのはなし」